バルカン半島の内陸、セルビアは旅する前後で大きく印象の変わる国だ。幾重にも塗り重ねた絵の具を思わせる青空と綿々と続く緑の農地、パステルカラーの愛らしい家屋が並ぶ村々。ドナウ川が流れる恵み豊かな大地は、民話から抜け出したような牧歌的な美しさを湛えている。
もちろん、その背後には多くの民族が織りなした複雑な歴史がある。それが窺えるのは、風景よりむしろ食。ギリシャ、トルコ、ハンガリー……。さまざまな国の影響を受けたセルビア料理は食の坩堝(るつぼ)。それらが土地の産物とパズルのように組み合わさり、独特の食文化を育んでいる。
そんなセルビアに面白い小麦料理がある。見た目は、まんまスープ麺。といっても麺はすいとんに似た食感で、濃厚な鶏のブイヨンがたっぷりしみ込み、口の中を旨味であふれんばかりにする。「ドマーチレザンチ入りチキンスープ」だ。
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