空気は乾き、太陽は翳(かげ)りがち。温暖なメキシコシティーでも確かに冬を感じる時季にその日はやって来る。2月2日の「カンデラリア祭」。キリストの生誕40日後の「聖母マリアの清めの祝日」で、メキシコの長いクリスマス期間最後を飾るイベントだ。地方ではパレードなども催されるが、この大都市ではむしろ家族や友人と集うアットホームな習慣が大切にされている。
そんなカンデラリア祭にみんなで食べる行事食が「タマレス」。トウモロコシ粉にラードを加えて練った生地にさまざまな具を包み、トウモロコシやバナナの葉でくるんで蒸す。普段は市内中に屋台が立つ庶民の味だが、キリスト教が普及する以前から神々への供物とされていたともいう。この土地で脈々と受け継がれるトウモロコシ文化を今に伝える伝統料理の一つである。
具は果実や蜂蜜など甘系から肉、チーズ、欧州文化との融合から生まれたモーレ(ソース)まで。どんなものも受け止める懐深い美味と豊かな香りは、この国の風土や遥かな時代にまで思いを誘う。滋養もたっぷり。聖母も元気になりそうな一皿だ。
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