フランスの粋が詰め込まれたような土地である。中世の古城や古都、それらを縫うように流れるロワール川。しかし、ここで暮らす人々にはもっと愛する風景がある。家の周囲に広がる小麦畑。春には青々とした麦の葉が地平線まで埋め尽くし、夏には金色の穂に交じる赤いコクリコの花、やがて見渡す限りのヒマワリの列が目を楽しませる。ワイン、チーズ、蜂蜜などが特産。美食の宝庫としても知られるロワール地方は、国内有数の穀倉地帯でもある。 そんな恵み豊かな地の食卓は、意外なほど簡素だ。パンにチーズとハムがあればいい、フルコースを楽しむのはたまの外食やパーティーぐらいという人がほとんど。
その代わり、パンへの愛はフランス中でも人後に落ちない。食卓には何はなくとも必ずパン。早朝にパンを買いに行くのが毎日の習慣で、これは一家の主たる父親の役目。幸福な食卓は、かぐわしい小麦の香りから生まれると固く信じているのだ。
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