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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

豪快な一皿! ラムチョップとじゃがいもの蒸し煮「カザンキャバブ」とキルギスのパン「ノン」。ノンの中央をくぼませて焼くのは、全体に熱を行き渡らせるため。模様をつけるのも習慣で、誰が焼いたかの目印になるという。風味づけにニゲラの種を散らしているものも多い。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 6月号
編集タイアップ企画より

キルギス共和国

遊牧と交易の大地、
羊とパンの親密な関係

 連なる山々と雪解け水を湛えた湖、広々とした牧草地。その美しい景観が、紀元前から遊牧が盛んな理由を物語る。人呼んで“中央アジアのスイス”。遊牧民の定住生活が一般化した今日でも、夏だけは山に入り、移牧を営む人は多い。こんな環境で育つ羊肉がおいしくないわけがない。スープ、麺、腸詰め……。近隣諸国でおなじみの羊肉の串焼きや餃子の仲間も、ここで食べると格別。キルギスは羊肉好きの楽園だ。

 羊はお金より大切な財産でもあるという。そんな地元民たちが、人を招いたときに振る舞うもてなし料理が「カザンキャバブ」。下味をつけて焼いた骨付きラムと、素揚げしたじゃがいもを大鍋で蒸し煮にする。ラムはジューシー、肉汁を吸ったじゃがいもがまた旨い。何よりも、みんなでワイワイつくれることが楽しい。そんな時間を大切にするのがこの国の人々だ。

 そして羊肉料理に相性抜群なのが、食卓になくてはならないキルギスパン「ノン」。炭火のタンドール窯に張りつけて焼く平パンで、皮はカリッ、中はもちもち! 時に羊肉を焼いた窯の残り香が、小麦の風味に入り混じるのも味わい深い。宴席では山と盛られたノンを家主が次々に配っていくのが常。それは、大地の恵みを分かち合う儀式のようにも見えるのだ。

 つながり合い、支え合いながら暮らす人々。コミュニティーは多様な民族が交じり合う。シルクロードの要衝でもあった土地柄。遥か昔からさまざまな人と文化が行き交い、今日では実に80以上の民族が、日本の約半分の面積に共存している。

 小さな村でもウズベク人が営むノン屋あり、家畜を育てるキルギス人の集落ありと国際的で、朝はなじみの顔を訪ね歩き、新鮮な乳製品や果実、ノンを購入して回るのが日常の風景だ。それはまるで最小単位のバザールを巡るよう。そんな品々が並ぶ朝の食卓──。華美や贅沢とは無縁でも、人とのつながりが生む豊かさにあふれている。