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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

日本では半熟カステラの呼び名で人気のオヴァールの「パン・デ・ロー」。王様が町に来た際、慌てて生焼けで出したものが旨く、そのまま受け継がれたとの逸話あり。なお日本におけるカステラの名称は、イベリア半島にあったカステーリャ王国由来など複数の説がある。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2019年 2月号
編集タイアップ企画より

ポルトガル共和国

日本と世界をつないだ
パンの国のパン

 1543年。日本の歴史に深く刻まれる年である。ポルトガル人の乗った船が種子島に漂着。以後、彼の地からはさまざまな食文化が流入、和食の世界を広げていった。天ぷら、金平糖をはじめ現在、南蛮由来と言われるものは数々あるが、その一つがカステラ。ポルトガルの伝統菓子「パン・デ・ロー」をルーツとする説が有力だ。

 修道院生まれ。基本となる材料は小麦粉、卵、砂糖のみの素朴な焼き菓子だ。今もキリスト教の行事に欠かせないが、一方で日常的にも愛されている。パン屋やカフェでも定番。どちらかといえば甘いパンの感覚で、朝食やおやつに楽しまれている。

 地域によって形や焼き方に違いもあるが、なかでも北部の町、オヴァールのパン・デ・ローは中が半生で、頬張ると濃厚な黄身の風味が口中に広がる。数人分ある大型サイズを皆でワイワイちぎり合って食べるのだとか。太陽のような黄金色と力強い甘味、加えて美味の背景に見え隠れする楽しく豊かな食卓。それは近世の日本に、どれほどの驚きをもって迎えられただろうか。

 実際、食事を楽しむことを大事にするポルトガル人。昼も夜も、家族や友人と時間をかけて料理と会話を味わう。そこに必ずあるのがパン。素材を生かした優しい味のポルトガル料理を小麦の香りで包み込む、旨いと評判のこの国のパンだ。そして日本のパン事始めも室町末期、ポルトガルからもたらされた「Pão(パォン)」が、日本語のパンの語源となったという。その響きが温かく感じるのは、彼の地の食文化が日本に浸透している証なのだろう。

 さて、そんなポルトガルの朝。起き抜けに食べる食事だけは簡単に済ませるポルトガル人だが、午前中に第二の朝食とも言える間食時間をもつ。サンドイッチやトーストを手に、職場の同僚や友人とお喋りを楽しむのだ。パンの周りを囲む笑顔の輪。すでに、日本の食卓になくてはならないパン。その原風景がここにある。