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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

シナモンシュガーをたっぷりまぶしたブラジル風フレンチトーストの「ハバナーダ」(手前)。甘さも食感も見た目より軽やかで、揚げパンにも似た日本人になじみやすいおいしさ。やはりナタールの定番・干鱈を使った、バカリャウとコーンミールのピュレとともに。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2019年 1月号
編集タイアップ企画より

ブラジル連邦共和国

ナタールの夜、
甘いパンと家族の記憶

 12月、南半球は夏。暑く陽気なサマー・クリスマスの時季が今年もやって来た。ポルトガル語ではナタール。普段から人と集うのが好きなブラジル人でも、家族、親族みんなで開くクリスマスの祝宴は、特に心待ちにしているもの。“13番目の給料”と呼ばれる年末ボーナスも、全部この日のために使ってしまう気の入れようだ。

 一年で最も豪華なご馳走も大きな楽しみ。定番は鶏の丸焼きに、南米原産のキャッサバやポルトガル由来とされる干鱈を使った料理。イタリア生まれのクリスマスパン・パネトーネも常連で、家によっては巻き寿司も並ぶ。ナタールの食卓一つとっても、さまざまな国にルーツを持つ味が自然に混ざり合うのが移民の国・ブラジルだ。

 なかでもナタールに不可欠なのが、ブラジル風フレンチトースト「ハバナーダ」。牛乳と練乳をしみ込ませたパンを卵液に潜らせ、油で揚げる。仕上げには、表面を覆い尽くすシナモンシュガー。甘くて重量感たっぷりだが、「太るよ」と笑い合いつつ一人が2、3枚は平らげる。特にママの味は最高。大人も子供も大好物だ。

 ちなみに、ブラジルでポピュラーなパンと言えば“ポン・フランセース”。フランスパンの意味だが、クラムはふわふわで、サイズも日本のコッペパン並み。これも他国から持ち込まれ、愛されながら土地の味に変化したもの。どこかほっとするブラジル料理にとても合うパンである。

 さて、聖夜の宴は食べて飲んで贈り物を交換したりと、賑やかに楽しむのがブラジル流。時には誰かが誘った見知らぬ人まで参加するが、今日はみんな家族。人々を包み込む大らかさと温かさにあふれているのが、ブラジル家庭のナタールだ。

 そして迎えた翌朝。祝宴の余韻が抜けぬまま眠り込む人々を起こすのは、この日も焼けたパンの香りと家族の声だ。時を経ても失われることのない優しい記憶。これこそ、何よりの祝福なのではあるまいか。