「ロブスターロール」のフィリングには、冷たいロブスターのサラダ仕立て(写真)と、ゆでたてのロブスターをバターで和えた温かいものと2種類あり、夏はサラダ仕立てが好まれる。パンはブリオッシュロールが人気。
月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 8月号
編集タイアップ企画より
アメリカ合衆国
ボストン
初夏、港町のシーフードは
おいしいパンとともに
バンズの切れ込みからあふれんばかりの具。マヨネーズや香味野菜と和えたロブスターの身は、量にしてまるまる一尾分。何という贅沢! 具がこぼれ落ちないよう、ぎゅっとつかんでかぶりつけば、活きのいい海老の旨味が口いっぱいに広がった。
アメリカ東海岸ニューイングランド地方、全米屈指のシーフード料理が楽しめると評判の港町・ボストン。世界的に有名なボストンクラムチャウダーをはじめとして名物には事欠かないが、この時期の楽しみと言えば「ロブスターロール」。決して季節限定の料理ではないけれど、まぶしい太陽の下、光り輝く海を感じながら味わうそれは、格別のおいしさなのである。
このロブスターロール、味の決め手はパンにもある。評判の店は自家製にしたり、特注したりと味を競っていて、種類もホットドッグ用のバンズでなく、ブリオッシュ生地を使用しているところが多い。ほのかな甘味とサクッとした食感が、魚介の滋味を引き立てる。シャリにこだわる日本の鮨と、通じるところもあるのだろうか。海の恵みをパンで生かす。その知恵が、この街発祥のパン料理から伝わってくる。
ニューイングランドと言えば、英国人が基礎を築き、アメリカ建国の母体となった地域の一つ。今も歴史ある英国調の建造物が保存されているボストンは、景観の美しさでも全米屈指とされている。その中で食を楽しみ、スポーツに興じ、文化を愛し、生き生きと暮らしているのがボストニアン。17世紀、新世界での幸福を夢見た人々の心が、今も息づく街である。
初夏は、そんなボストンが華やぐ季節。色濃い緑を背景に、通りや公園に花々が咲き誇る。それと呼応するようにカラフルになるのが家庭の朝食。いつものパンとともに、旬の果物を存分に楽しむのだ。さりげない変化に心が浮き立つ。トーストが焼ける香りと家族の笑顔、日々の喜び。街がことさら愛おしく感じる朝の風景だ。