ニューヨークの朝の定番「ロックス・ベーグル」。写真のベーグルは、胡麻やけしの実、オニオン、ガーリック、岩塩などのトッピングを全部のせた一番人気のエブリシングベーグル。フィリングのクリームチーズにねぎが練り込まれているのもニューヨーク流だ。
月刊dancyu[ダンチュウ]
2020年 9月号
編集タイアップ企画より
アメリカ合衆国
ニューヨーク
世界のパンが集まる。
ニューヨークで朝食を!
多様な文化圏出身の人々が、モザイクのように暮らす都市・ニューヨーク。住民の約4割は移民、話される言語が150種類以上に及ぶ地区もあるという。ここはまた、彼らが世界中から持ち寄ったパンの宝庫。デリで、屋台で、ベーカリーで……。出合える味のルーツを辿れば、まるでパンの万国博覧会にいるようだ。
なかでもニューヨークらしいパンと言えば、ベーグル。19世紀末、ユダヤ系ポーランド人によってもたらされ、いつの頃からか人気の朝食として定着した。早朝の五番街で、タイムズスクエアで、このサンドイッチを頬張りながら足早に仕事へ向かう人の姿は、街の風物詩ともなっている。
専門店では数種のベーグルとフィリングが用意され、自由な組み合わせを楽しむのがニューヨーク流。特に定番中の定番は、「ロックス・ベーグル」。ロックスとはユダヤ語でスモークサーモンを指す。クリームチーズたっぷりのサーモンサンドイッチだ。この一品には多くの人が一家言あるようで、曰く「甘いフレーバーのベーグルはご法度」「ユダヤ系の店で買うに限る」など。そして、最も大事なのはベーグル生地にニューヨーク市の水道水を使うこと。これが美味の源と、誰もが信じているのだ。
上陸当初は同郷の移民同士、厳しい状況にも希望を捨てず、故郷の味で励まし合おうと食べていたパン。ルーツは違っても、ニューヨークのパンには皆似たような物語がある。その一つ一つが今や街の味となり、すべてのニューヨーカーに喜びやパワーを与えている。一見まとまりがないようでいて、この街は食で繋がっている。
さて、現在のニューヨークの朝。人々が朝食を食べ歩く光景もまばらな街は、どこか寂しげ。「今は辛抱。日常は必ず戻ってくるから」と現地の人。どんなときも希望を持ち続けることこそ、ニューヨーカーたる所以。ニューヨークで朝食を──。活気に満ちたおいしい朝が戻る日は、きっと近い。