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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

さまざまなおかずを、薄いクレープ状の餅(ビン)で巻いたり包んだりして食べる「春餅」。中国東北部には、ほかにも葱を巻き込んで焼いた葱油餅(ツォンヨゥピン)など多彩な餅料理がある。多種多様すぎて、何をもって餅と呼ぶのか現地の人さえ正確にはわからないとか。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2019年 7月号
編集タイアップ企画より

中華人民共和国
東北部

巻いて包んで。
東北三省の中華クレープ

 中国東北部。地図で見ると、広大な領土から突き出た半島のようにも見える。遼寧省、吉林省、黒竜江省からなる東北三省は、周囲をロシア、朝鮮半島、内モンゴル自治区に接し、古くから栄えた瀋陽、長春、ハルビンの三都を中心に多民族の味が混じり合う独自の食文化を育んできた。加えて国内指折りの穀倉地帯。数々のおいしい小麦粉料理に出合える土地柄でもある。

 餃子や包子(パオズ)、麺の種類も豊富だが、なかでも名物は「春餅(チュンビン)」。北京ダックでおなじみの薄餅(パオビン)の一種で、小麦粉の生地を薄く焼き上げたもの。中国式クレープとも呼ばれ、現地では食卓に何枚も用意し、肉や野菜、卵料理などのおかずを好きなように巻いたり包んだりして食べる。立春の行事食でもあるが、今では専門店があるほど日常的に愛される郷土の味となっている。

 小麦粉の力を実感する料理で、一緒に食べれば、羊肉や内臓料理など少々クセのある味もまろやかになる。不思議なほど食卓が活気づくのも面白い。「もっと食べなよ」と薦め合い、「この組み合わせも旨いよ」と交換する。初対面の人とも距離が近づき、知っている人とはより親しくなる。「一人では食べない。食事はみんなとするものだ」とは、ある東北人の言葉。食事が人と人をつなぐものでもあることを、春餅のある食卓は教えてくれる。

 一説では紀元前から食べられていたとか。変貌著しい中国。近代化の波は食にも押し寄せているが、大切なものは守り継ぐ文化がここにはちゃんと存在するのだ。

 朝食もその一つ。昼夜は家族別々で外食の日も少なくないが、朝だけはどんなに早くても全員揃って食卓に着く家庭が多い。メニューは、朝から春餅ということもしばしば。ただ最近では、春餅代わりに食パンを好む人も増えているという。おかずは前日の残りで十分。巻いて包んで楽しんで。すべてをご馳走に変える温かな家族の団らんが、そこにはあるのだから。