ほっこりした豆、とろりとした茄子が美味な「ダール・ヴァンギ」。豆の種類が豊富な西インド。この料理にはトゥールダール(木豆)やチャナダール(黒ひよこ豆)が使われる。右上はきゅうり入りの「キューカンバ・テプラ」。そのままでも、カレーやチャツネにつけてもおいしい。
月刊dancyu[ダンチュウ]
2017年 6月号
編集タイアップ企画より
インド ムンバイ
ハリウッドに、街の旧名ボンベイの一字を重ねて“ボリウッド”。今や世界に名高いインド映画の中心地、ムンバイ。愛や友情、笑いに涙、歌、踊りと盛りだくさんに詰め込まれたその映画のように、あらゆるものがひしめく大都市でもある。あふれんばかりの人と車。高層ビルの合間には、英国統治時代の建物や昔ながらの露店街。多様な宗教が同居し、音楽やファッションなど流行の拠点となっている。
食も同様。地域の郷土料理やインド各地の味、さらに各国料理と多彩なレストランや屋台が集合する外食天国。それでも家庭料理を何より大事にするのが、この街の住民だ。平日のランチも、勤務先の夫に温かい手料理を届けたいとムンバイ名物・弁当配達人を利用する人が多い。荷台や自転車で運ばれる数々のランチボックスは、混沌とした街に温かさを添える光景だ。
そんな昼食にも活躍する家庭料理の代表が、豆と茄子のカレー「ダール・ヴァンギ」。西インド、特にムンバイのあるマハーラーシュトラ州は独特のスパイス使いに定評があり、このカレーはドライココナッツとポピーシードが味の要となっている。甘い香りの奥から、豆や茄子の旨味があふれ出す。スパイス使いは親子で受け継がれるものという。核家族化が進む今も、まだまだ母の味は世代をつなぐ家族の絆となっている。
母の味といえば豆粉と小麦粉の平パン「テプラ」も西インドの家庭でよく焼かれるもの。消化にいいスパイスを練り込んであり、後味が軽い。噛めば噛むほど味わい深く、食べ飽きしないおいしさだ。
パンの種類が豊富なムンバイ。西洋パンも人気で、朝食用のパンは早朝、パン屋に買いに行く人も多い。実はその頃が喧騒の始まる前、街が最も美しいとき。朝日を浴びた海沿いには、寺院の周囲に夢のような光景が広がる。その中をパンの香りとともに朝食を待つ家族の元へと一途に帰る人々。これもまた、映画の一場面のようである。