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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

イタリアの父の日、聖ヨセフの日の揚げシュークリーム「ゼッポレ」。「ゼッポレ・ディ・サン・ジュセッペ」とも呼ばれる。食感はフレンチクルーラーに似て、レモンの産地でもあるカラブリアでは、レモンの皮をふりかけることも多く、爽やかな香りが食欲をそそる。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2019年 4月号
編集タイアップ企画より

イタリア共和国
カラブリア州

春を祝う。
父の日の揚げシュークリーム

「青と緑。それがこの土地の色」と、あるカラブリア人は言う。約800㎞に及ぶ美しい海岸線と、どこまでも続く耕作地帯。あふれる陽光が照らす輝くばかりの風景に、昔ながらのスローライフが営まれる小さな村が点在する。長靴形をした半島の爪先に当たるこの州に、本当にイタリアらしい美しさがあると住民たちは胸を張る。

 とはいえ、春も浅い今頃はまだ景観に寒々しさも残る。そんな日々を盛り上げるのが3月19日、聖ヨセフの日だ。イエスの義父、サン・ジュセッペを記念する祝日。同時に父の日でもあり、春の訪れを祝う習慣もある。前夜には各地で焚き火をし、屋台も出るなどお祭りムード。行事とあらば、常に家族で集うのがこの地の人々だ。

 そして聖ヨセフの日に食べられる、伝統菓子が「ゼッポレ」。南イタリアで生まれ、今や父の日の菓子として全土で愛される揚げシュークリームだ。シュークリームと言えば本場フランスには16世紀、メディチ家のカトリーヌ妃のお輿入れとともにシュー生地が伝わったとされるから、言わば母国の味とも言えるだろう。

 たっぷりのカスタードとチェリーのシロップ漬けをのせるのが定番。生地はふわりと柔らかく、クリームと混じり合い舌の上でとろけるようだ。作法など気にせず頬張るのが現地流。大人も子供も夢中で食べる姿は幸福そのものだ。小麦の産地でもあるカラブリアは、このゼッポレのように四季折々、行事とともに楽しむ伝統菓子が豊富。ここではいつも、甘く楽しい食卓とともに新たな季節が訪れるのだ。

 さて、そんなカラブリアの朝。多くの人が幼い頃の記憶として語るのが、祖父母や両親の畑や菜園の手伝いをしたこと。青空の下、豊かな緑の中で汗を流した思い出は、作業の後に家族で囲んだ楽しい朝食やパンの香りとともに蘇るのだと言う。愛する故郷の美しさも、それを輝かせるのは大切な家族だと、こうしてみんな知るのである。