世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

マルタ第二の島、ゴゾ島由来とされ「ゴゾのフティーラ」とも呼ばれるピザタイプのフティーラ。写真のように角形もあれば、丸形のイタリアンピザ風、具を包んで焼くお焼き風もある。胡麻とイタリアンパセリを散らして。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 7月号
編集タイアップ企画より

マルタ共和国

美しき島。朝も昼も
食卓にパンの香りが漂う

 “地中海の真珠”と呼ばれる。きらめく太陽にエメラルドの海、中世の騎士団が築いた世界遺産の街……。淡路島の半分ほどの面積に美しさが詰まっている。だが、この国で何より印象的なのは人。旅人にも親切で温かい。マルタの独特で居心地の良い空気感は、人が生み出しているのだろう。

 マルタ島やゴゾ島など大小の島々が集まり、紀元前から地中海の要衝だった場所。食文化は近隣国イタリアと共通点が多いものの、中東やアフリカの食材、スパイスも多用する。石灰石が土台の土地は決して豊かとは言えないが、陽光を浴び、伸び伸びと育つ野菜や果実は濃厚。蜂蜜、チーズ、ワインなど評価の高い特産物もある。

 特に驚くのがパンのおいしさ。なかでも「フティーラ」と呼ばれるドーナッツ形の伝統パンは、旅行者も皆絶賛するほど。香ばしい皮と弾力のあるクラム。生地を何日もねかせる手のかかり具合もさることながら、味の秘密は水だという。水資源に乏しいマルタでは、海水を淡水化して使用。その際に残る塩分が、絶妙の塩気につながっている。マルタのパンは、この地の風土や知恵が生んだ唯一無二の味なのだ。

 このフティーラ、同じ生地を薄くのばして焼くピザタイプもあり、ランチで人気の一品。カリッと軽い皮に、じゃがいも、肉、チーズなど具は盛りだくさん。気取った味ではないけれど、旨いものをどっさりのせたよ──つくり手のそんな声が聞こえそうな、ほっこりした旨さだ。ちなみにフティーラはチュニジア語。由来は定かでないが、今ではれっきとしたマルタ名物だ。

 そんなマルタの朝は、やはり小麦の香りで幕を開ける。サンドイッチやパイを売る店が早くからオープン。パンの移動販売もやって来る。ぱくつきながら幸せそうに歩く人の姿を羨ましげに見ていると、「あの店が旨いよ」と教えてくれるのがマルタ人。楽園は一日にしてならず。皆でつくるものなのだと、その笑顔が語っている。