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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

モルドバの串焼き「フリーガロイ」。肉は豚や牛もあるが、一番人気は鶏。サワークリームや玉ねぎ、にんにく、ベイリーフなどで数日マリネした後、グリルや炭火で焼く。ワインと相性抜群。食卓に欠かせないパンはライ麦パンが主流だが、ハーブ入りの黒パンなど種類は豊富。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2017年 5月号
編集タイアップ企画より

モルドバ共和国

九州よりやや狭い面積。一日で回れるほど小さな首都のほか、目立った観光名所も少ない東ヨーロッパの小国。だが、訪れた人は「またいつか戻りたい」と声を揃える。国土の大部分を占める丘陵の牧歌的な風景や素朴で温かい人柄に、懐かしい場所へ帰ったような安らぎを覚えるのだという。

 ほっとするのは、この国の食にも理由がある。ロシア、ルーマニアなど近隣国と共通するメニューも多いが、味つけや香辛料は控えめ。肥沃な土地が生む地場の野菜や肉、乳製品を生かした料理は何を食べてもしみじみ旨い。その味をより楽しませてくれるのが、噛むほどに香り豊かなライ麦パンと、各国の王侯貴族にも愛されてきた歴史あるワイン。国の広さや人口、経済規模では測れない、暮らしの豊かさがある。

 もう一つ、モルドバ料理の特徴は調理に手間を惜しまないこと。家庭で日々食べるスープや煮込みもだしからきちんととり、2時間、3時間とかけてつくる。時短クッキングとは無縁。「そのほうがおいしいでしょ」とこともなげに言う主婦たちは、食卓の大切さをよく知っている。

 彼女たちが最も腕を振るうのが、家族や友人と楽しむ休日の食事。その定番が串焼き「フリーガロイ」。特に鶏のフリーガロイは大人気。みんなの笑顔を思い浮かべ、数日前から下ごしらえをするという。グリルで焼いたお裾分けを頬張ると、驚くほどジューシー! 助け合いながら生きることを大事にするモルドバ人。土地の恵みと真心が一緒になったこんな味わいも、人々をつなぐ力になっているのだろう。

 さて、そんなモルドバの朝。テーブルに並ぶのは果物やサラダ、そしてひと手間かけたふわふわのオムレツだ。パンにのせて食べれば、その味は幸福そのもの。とはいえ、楽しみもつかの間、パパや子供たちは「今日も頑張って」と早々に送り出される。母は強し。だが、胃も心も大きな愛で満たされるモルドバの朝である。