世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

「生ハムのボカディージョ」。オリーブオイルを回しかけるほか、カタルーニャとアンダルシアではパンにトマトを擦りつけたり、すりおろしを塗ったりもする。生ハムの種類は、最高級のハモン・イベリコ・デ・ベジョータ(写真)からポピュラーなハモン・セラーノまでさまざま。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2020年 3月号
編集タイアップ企画より

スペイン王国

シンプルの極み。
生ハムとパンの贅沢!

 街を歩けば、バルやカフェ、さらには専門店などそこかしこの店先で目に飛び込んでくる。家でも日常的につくられ、朝食、ランチボックス、おやつにとフル回転。地方色豊かな食文化を持つスペインにあって、ほぼ全土で愛される国民食が「ボカディージョ」。スペイン風サンドイッチである。

 特徴はまず、何と言ってもシンプルなこと。たいていはバゲットに1〜2種類の具を挟んだだけ。バターやソースもほぼ使わず、彩りも多くは地味である。

 だが、この素朴なサンドイッチが多くの旅行客をも魅了する。特に人気は「生ハムのボカディージョ」。スペインが誇る生ハム“ハモン”に、やはり世界的に有名なスペイン産オリーブオイルをたらり。おいしいパンと一緒に嚙みしめれば、あふれる美味にほかには何も要らないとわかる。地域によってはパンにトマトを擦りつけたりもするが、シンプルだからこその贅沢な味わいをこの国の人は知っているのだ。

 食べ方に流儀はないけれど、あえて言えば会話を楽しむこと。この国では、一人静かな食事などは論外。短い間食の時間でさえ家族や友人、会社の同僚、あるいはバルの店員や常連たちとたっぷり喋る。話し込む間に、パンも具の油分や水気を程よく吸って食べやすくなる。会話は、物理的にもおいしく食べるスパイスなのだ。

 食を中心に生活が回ると言われるスペインだが、それは同時に人との交流を何より大事にしている証でもある。楽しいときも辛いときも、誰かと食べ、語り、分かち合う。その暮らしは、底抜けに陽気なようで知るほどに味わい深い。

 そんなスペインで、やはり全国区なのが朝一でパンを買う習慣。郊外では軒先に吊るしたパン袋に、パン屋が宅配をする昔ながらの光景が今も見られる。朝の食卓も、大好きなボカディージョも、今日一日の楽しみだってパンがなければ始まらない。この国に朝を運ぶ、小麦色の太陽だ。