世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

地域ごとに独自のチーズやパンがあるスイス。「チーズフォンデュ」も町や村によって意外なほど個性がある。基本はワインをたっぷり使うのが現地流で、チーズの香ばしさに混じり合うワインの香りと果実味が印象的。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 12月号
編集タイアップ企画より

スイス連邦の朝食

絶景!登山鉄道の旅、
パンとチーズの温かな食卓

 まるで大空を目指すように急勾配を上る車窓から、次々と変化する絶景が望まれる。森、草原、氷河、雪を頂く雄大な峰々……。のんびり進む列車の速度ともあいまって、その美しさはゆっくり心にしみ入るようだ。始発から終点まで30分程度の路線も多く、時間にすれば決して長いとは言えないが、誰にも特別な記憶として刻まれる旅である。

 100年以上の歴史をもつスイスの登山鉄道。アルプス各地には標高3000mを超えて運行する列車をはじめ、多くの路線が走る。その背景にあるのが、山とともにある暮らし。地元にとっては恵みを産する地であるのはもちろん、街の人にとっても娯楽や安らぎの場だ。登山だけでなく、スポーツに散策、ただ風景を眺めるだけで幸福になれると言う人もいる。

 料理自慢の山小屋(シャレー)などで舌鼓を打つのも山へ行く目的の一つ。これからの時季なら「チーズフォンデュ」。白ワインなどで煮溶かしたチーズに、パンをからめて食べるおなじみの料理だが、もとはアルプス地方の郷土食。辺りに点在する銘醸地の地場産ワインと合わせるのも大きな楽しみだ。冬には車内でチーズフォンデュが食べられる特別便も出現。チーズフォンデュの季節の到来を、皆で喜び合っているようだ。

 硬くなったパンを活用するために生まれた料理とも言われ、現地では今も具はパンのみが主流。おいしく食べるコツは、串に刺したパンでチーズを勢いよく混ぜるようにしてからめること。油脂の分離を防ぎ、チーズをなめらかに保つのだ。熱々の鍋を皆でワイワイつつけば体も心も温まる。その味に旅行者でさえ懐かしさを感じるのは、そこに食卓の喜びが宿っているからだろう。

 さて、アルプスにも特別な時間がある。それは夜も明け切らぬ早朝。薔薇色に染まる峰を眺めつつ、新しい空気とともに食べる一枚の焼きたてパン、一杯のコーヒーの旨いこと──。この国には豊かな心の故郷がある。そんな思いが膨らむ山の朝である。