近年、テヘランに帰郷した人々は、久々に見る故郷の変化に驚きを隠さない。近代化の波は急速で、チャイや水タバコを楽しむ古きよきチャイハネ(茶館)さえそれを逃れていない。そんな彼らをほっとさせるのは、昔ながらの変わらぬ「あの味」だ。
あの味とはチャイハネ名物「アブグーシュト」。野菜、豆、羊肉をスパイスと煮込んだシチューで、イランの伝統料理である。一口食べた印象は辛くないトマトカレー。だが、その一言では片付けられない。まろやかになるまで煮込んだ素材とスパイスの絶妙な調和、そこから引き出される滋味──。食べるほどに味わい深く、愛されてきた長い年月の重みさえ舌を通じて伝わってくる。
この料理、食べ方が面白い。まずスープだけ別皿に取り、ちぎったパンを浸して食べる。次に残った具をマッシュし、パンにのせてパクリ。一皿で二度おいしい。パンをちぎり、分け合うスタイルが大人数での食事を好むイラン人に適っている。
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