日本の塩パンのルーツとされる「ザルツシュタンゲール」。お酒との相性もよく、ビアホールやワイン酒場のホイリゲでも定番のパン。キャラウェイシードを加えて焼くことも多い。右奥は「ポテトとズッキーニのクリームスープ」。オーストリア料理はスープが多彩でおいしい。
月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 11月号
編集タイアップ企画より
オーストリア共和国
塩の国。
塩パンのルーツ
ハプスブルク家のお膝元。華麗な文化が花開いたオーストリアは、数千年の歴史をもつ塩の名産国でもある。アルプス山中には世界最古とされる岩塩坑があり、中世から近代にかけて岩塩をヨーロッパ各地へ届けた塩の道、塩で栄えた街も当時の面影を残す。そして昨今、日本で人気の“塩パン”もこの国にルーツがあるという。
パンの名前は「ザルツシュタンゲール」。直訳すると“塩の棒”。生地をくるくる巻いて細長く成形し、岩塩を散らして焼く。小麦粉の風味を引き立たせる塩味と旨味、外はカリッ、中はふわりとした食感も堪らない。そのままでも十分旨いが、サンドイッチにしたり、料理と組み合わせたりと多彩な食べ方で楽しまれている。
「スープにも合うのよ」と言って、現地の主婦がつくってくれたのが「ポテトとズッキーニのクリームスープ」。すりおろしたズッキーニと刻んだじゃがいもをたっぷりのバターで炒め、スープストックを注いで煮込んだ後、刻んだチーズとソテーした挽き肉、サワークリームを加える。素材の味がしみじみと伝わる、シンプルなおいしさ。ここにザルツシュタンゲールの塩気が加わると、なるほど味わいに深みと余韻が生まれ、ご馳走感がぐっと増す。
「いい塩があれば、余計な味つけをしなくても素材が生きるの」とは、前出の主婦。パンとスープ、あるいは旬の料理。特別に手間をかけなくても、季節を感じる食卓を仲間で囲むのがオーストリア人は大好き。多くの時代を経て、今、この国では日常を楽しむ文化が静かに成熟しているようだ。
そんなオーストリアの人々が愛するのが、朝の空気。休日はもちろん平日も早起きし、街や公園を散策する人が多い。輝く朝日、季節ごとに美しい街並み、そしてパン屋やカフェから漂ってくる香ばしい香り──。彼らの表情は、この国が最も華やかな時代に生きた貴族たちさえ羨(うらや)ましがるような、幸福感であふれている。