地域によっては「クラップフェン」「プファンクーヘン」とも呼ばれる「ベルリーナー」。生地を高温の油で揚げた後、ジャムなどのフィリングを注入、粉糖やアイシング、チョコなどをかけて完成。大晦日や謝肉祭には色とりどりのベルリーナーがパン屋のウインドーを飾る。
月刊dancyu[ダンチュウ]
2018年 2月号
編集タイアップ企画より
ドイツ連邦共和国
英語名は“ジェリードーナッツ”。でも食感は、いわゆるドーナッツと少し違う。生地はしっとり柔らかく、揚げてあるのにふんわり軽い。頬張れば、中に詰まったジャムやチョコがあふれ出し、小麦の旨味と合わさると甘い幸せが口いっぱいに広がる。「ベルリーナー」は、老若男女を問わず、ドイツ人なら目がない揚げパンだ。
年中出回ってはいるものの、祝祭と深く結びついたパンでもあ る。全国的には大晦日、ケルンなどでは盛大な謝肉祭(ファッシング)の時季にこのパンを食べる伝統がある。今年は2月、普段はジャムのフィリングに粉糖やアイシングを施したシンプルスタイルが大半だが、シーズン中は種類もぐっと豊富に。チョコ入りやビールと合うエッグノッグ入り、ちょっとしたいたずら用にからし入りまで登場。「毎年、父が山のように買ってきて、家族で楽しんだものよ」とは、あるドイツ人女性。彼らにとっては祝祭の日の楽しい記憶も、その味に溶け込んでいるのだ。
大型パンだけで300種類、小型パンは1200種類以上もあるとされる“パン大国”ドイツ。人々はそれぞれお気に入りを持ち、合わせる料理によってパンを替える。食べる量も相当で、一人当たりの年間パン消費量は80㎏以上と言われている。
とは言え、大国たる所以はそれだけではない。ベルリーナー以外にも、クリスマスのシュトーレンなど、ドイツはパンと祝う行事が豊富。その風味、香りが楽しい時間をさらに盛り上げる。パンが幸福の一部であることを、人々は知っているのだ。
さて、そんなこの国の朝はもちろんパンで始まる。「何が最高って、家族の誰かが起こしに来てくれて、開けた部屋の扉からパンの焼ける香りが漂ってくる朝。大人になってからは起こすほうで、なかなか体験できないけどね」とは、先のドイツ人女性。
特別なことは何もない。しかし、何ともパン大国の住民らしい、日々の豊かさに満ちた時間ではないか。