HOME | 世界の朝食 | コラム ヨーロッパ | ロシア連邦 モスクワ

世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

塩漬けイクラがたっぷり。野菜とハーブを合わせ、無塩バターを飾った「ブリヌイ」。フォークとナイフで具を包むように巻いて食べる。店によっては、初めから太巻きや手巻き寿司のように巻かれて登場することもある。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2017年 1月号
編集タイアップ企画より

ロシア連邦 モスクワ

 イクラたっぷり。でも鮨じゃない。ロシアのクレープと呼ばれる「ブリヌイ」。小麦粉に卵や牛乳、サワークリームなどを混ぜた生地を発酵させて焼く。見た目は確かにクレープだが、薄いのにもちもちとした食感や、この上なく軽い味わいは独特。イクラを巻いて食べれば、ブリヌイのほのかな甘味、酸味が口の中で弾ける魚卵の旨味や塩気と混じり合い、たまらなく旨い。

 丸い形や色から太陽にも喩えられ、行事や祭りに欠かせないブリヌイ。イクラ以外にも魚、肉、チーズなどの具、ジャムやクリームなどの甘味とも合う。家庭料理としても昔から愛されているが、多忙な主婦が増えた今のモスクワでは日常的にホームメイドをすることは少なくなった。

 その代わり、家族の祝い事や人を招いた日には50枚、100枚単位で焼く。こうしておけば、急に客が知人を連れてきても大丈夫。食卓に高く積み重なったブリヌイは、人をもてなすことが大好きなモスクワっ子の象徴でもある。

 住民自身が〝大きな田舎〟と呼ぶモスクワ。人間関係がドライではなく、温かい交流があふれているという意味だそう。田舎と言えば、食生活もスローライフ。多くの人が菜園付きのセカンドハウスを持ち、自分で育てた野菜、森の恵みのベリーやきのこが食卓の中心だ。残った食材はマリネやジャムなどにして長く楽しむが、お隣り同士で譲り合ったり、お裾分けにもする。この街の人と人との関係は、食によって育まれているのかもしれない。

 さて、そんなモスクワで一日の中でも慌ただしいのが朝。交通渋滞に気持ちも急かされ、多くの人が朝食もそこそこに家を飛び出す。通勤途中に屋台でピロシキを買うビジネスマンや、パンを頬張りながら走る子供の姿、その背中に「行ってらっしゃい」「気をつけて」と、あちこちからかかる声。クレムリンを照らす朝日以上に、彼らが愛する日常の風景だ。