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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

香港スイーツの王様とも呼ばれる「蛋撻(ダーンタッ)」。写真のクッキー生地のほか、パイ生地もあり、現在はフィリングもバラエティー豊か。ちなみに表面に焼き色をつける、お隣マカオのポルトガル式エッグタルト(香港ではこちらも大人気!)とは出自が違うそう。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2017年 4月号
編集タイアップ企画より

香港

 東京都の半分ほどの面積に、世界中の文化を詰め込んだような街。それでも飽き足らず、日々新しい潮流を迎え入れる自由港。香港ほど”欲張りな”都市はない。言うまでもなく、食はその最たるもの。高級店から庶民派食堂まで、中国料理を中心に各国の味があふれる。「胃袋一つじゃ足りないよ」と冗談めかして香港っ子は笑う。

 そんなエネルギッシュな街で、住民がひと息つくのが甘味。なかでも老若男女の大好物が港式(=香港式)エッグタルト「蛋撻(ダーンタッ)」だ。出来たてを街頭売りする店から焼きたての甘い香りが漂ってきたら、もう堪らない! 愛らしく咲き並ぶ花のような蛋撻と、その味わいをしばし楽しむ人々の光景は緑少ない香港のオアシスのようだ。

 この蛋撻、一説によれば生まれは広州。フランスから渡ったカスタードタルトが、バニラなどの風味を排し、たまごの旨味をストレートに味わう甜点心に生まれ変わった。最近では基本となるプリン餡のフィリングに、たまごの白身だけを使ったもの、燕の巣を混ぜたもの……と個性派も登場。蛋撻熱にさらに拍車がかかっている。

 昔から異国の食文化を受け入れるだけでなく、独自に昇華してきた街。たまごを使ったスイーツと言えば、もっと香港独特のものもある。食パンでピーナッツバターを挟んで卵液をしみ込ませ、油で揚げてからバター、シロップ、コンデンスミルクをたっぷりかけて食べる港式フレンチトースト「西多士(サイドーシー)」。ここまで来ると、もはや一般のフレンチトーストとは似て非なるもの。強烈に甘く、重く、だが有無を言わせぬ幸福感がある。多くの人を惹き寄せるこの街の味わいが、そこに詰まっている。

 さて、香港はパン屋の数も圧倒的。人気店になると早朝から行列ができる盛況ぶりだ。おいしい朝食のためなら睡眠時間を削って並ぶのも厭わない香港っ子。眠そうな顔などまったくない。港式の朝は、明るいパワーと食欲から始まるのである。