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世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

豚スペアリブを白胡椒や八角、くこなど数種のスパイスや漢方食材、にんにくと煮込んだ「肉骨茶」。揚げパン「油条」はスープに浸して食べる。右上の黒醤油と唐辛子のチリパディは混ぜ合わせ、好みで肉につけると旨い。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2017年 9月号
編集タイアップ企画より

シンガポール共和国

 日々めまぐるしく進歩する世界有数の近代都市。しかし、この料理を囲む食卓には、タイムスリップしたかのような時が流れる。シンガポールで生きる中華系の人々にとって、愛すべき朝食「肉骨茶(バクテー)」。豚スペアリブをスパイスや漢方食材、にんにくなどと煮込んだスタミナ食で、生まれは建国以前。マレー半島に出稼ぎに来た中国人労働者が手に入る食材を使い、故郷の料理を思い出しながらつくったものだという。

 白いスープを一口含むと、胡椒の痺れる刺激の奥から、滋養たっぷりの旨味が体の隅々まで行き渡る。ほろほろと崩れる肉からも深い滋味。常夏の一日の始まりに活力を与えてくれるおいしさだ。専門店では、卓上に備え付けのコンロで中国茶を淹れながら食べる伝統的スタイルも守られている。この一杯を楽しみに、庶民で賑わう店に高級車で乗りつける資産家もいるという。

 肉骨茶は隣国マレーシアでも人気だが、あちらは中国醤油を使っていたり、漢方食材の組み合わせもかなり違う。日本の東南アジア通の間では、スープの色の違いからシンガポール式を“白バク”、マレーシア式を“黒バク”と区別するとか。当事国同士はどちらが旨いか論争中。もちろん、お互いに譲ることはない。

 そんな肉骨茶に欠かせないのが、中華の揚げパン「油条(ユーチャークェ)」。ほんのり甘く、スープに浸すと気泡が汁を吸って口の中を旨味でいっぱいにする。この油条、揚げたてはそのままでおいしく、コーヒーと合わせて西洋風に楽しむ人もいるそうだ。

 さて、シンガポールの朝。3食外食が当たり前の国で、人々は屋台や飲食店で思い思いの朝食を食べる。中華はもちろん、カレーあり、有名なカヤトーストあり。なかには建国時から働いてきたと思しき年齢のコックさんもいて、その皺だらけの手でつくる一杯の肉骨茶、一枚のカヤトーストのおいしいこと。これらもまた、国際的美食都市・シンガポールの大切な美味である。