世界各地のバラエティ豊かな朝食
また、幸せの香り漂うパン料理などを紹介していきます。

「ホット・クロス・バン」。生地にシナモン、メースなどのスパイスやレーズン、りんご、オレンジの皮などが練り込まれている。カリッと焼けた十字模様の食感がアクセントとなり、風味豊か。14世紀の修道士が貧者に配ったことが、復活祭と結びついたきっかけという。

月刊dancyu[ダンチュウ]
2019年 5月号
編集タイアップ企画より

英国

復活祭のパンと
本場の卵サンドイッチ

 今年は4月21日。世界各地で多くの人々が待ち望む、復活祭(イースター)の日が近づいてきた。十字架にかけられた救い主・イエスの復活を祝うキリスト教の一大行事。英国では、同時に厳しい冬を越え、本格的な春の訪れを告げる節目でもある。シンボルは生命の誕生を意味する“卵”で、店先にはカラフルなイースターエッグの飾りつけも登場し、心浮き立つような雰囲気が街を彩る。

 子供が家の中に隠された卵形のチョコレートを探すゲームやパーティーなど、家族イベントも目白押し。そんな英国の復活祭に欠かせないのが「ホット・クロス・バン」。スパイスや果実を加えた生地の上面に、水で練った小麦粉で十字の模様を描き焼き上げる。復活祭と結びついたのは中世だが、起源はさらに遡る歴史の古いパンだ。

 半分に切ってトーストし、バターを塗って食べるのが現地流。しっとりとして実に風味豊か。紅茶とともに味わえば、甘く魅力的な香りに時間の流れも忘れてしまいそうだ。この時季、大人になっても無性に食べたくなるのが、ホット・クロス・バンと卵形のチョコだと多くの英国人が言う。

 卵と言えば、英国は卵サンドイッチの本場でもある。アフタヌーンティーの友やパブの軽食など、名物と呼ばれる卵サンドも数々あるが、家庭の定番と言えば「卵サラダ・サンドイッチ」。シンプルながら、これが旨い。パンと一体化する卵サラダの食感、味を決めるハーブ使い……。「英国の美味は家の中にある」とは、ある英国紳士。この国のおいしさは、日々の暮らしの中で手から手へと伝わるものなのだろう。

 さて、復活祭を2日後に控え、英国では4連休の初日にあたる金曜日の朝。グッドフライデーと呼ばれる特別な日の朝食は、ホット・クロス・バンを食べるのが古くからの習わし。パンの甘い香りの中、子供は期待に胸躍らせ、大人は「まず教会へ行くよ」と優しく諭す。楽しく、温かな、綿々と繰り返されるこの日の朝の光景だ。